4月14日・16日に熊本地方において発生した大きな地震と頻発する余震は、甚大な被害をもたらしました。地域防災に携わる者として、また建築士として自ら被災地を訪問し、建築被害の状況や避難所運営の状況の調査を行ってまいりました。切迫する首都直下地震対策への基礎データとしたいと思います。
【視察日程】
5月19日(木)~21日(土)
【熊本地震被害状況】 (7月14日現在)
1.熊本地震概要
発生日時:2016年4月14日 21時26分頃
震源地:熊本県熊本地方・深さ約11km
規 模:マグニチュード 6.5(暫定値)
各地の震度(震度5弱以上)
震度7:熊本県益城町
震度6弱:熊本市(東区・西区・南区)、玉名市、西原村、宇城市
震度5強:熊本市(中央区・北区)、菊池市、宇土市、大津町、菊陽町、御船町、氷川町..他
震度5弱:高森町、阿蘇市、南阿蘇村、八代市、長洲町、甲佐町、和水町、天草市..他
発生日時:2016年4月16日 1時25分頃
震源地:熊本県熊本地方・深さ約12km
規 模:マグニチュード 7.3(暫定値)
各地の震度(震度5弱以上)
震度7:益城町、西原村
震度6強:熊本市(中央区・東区・西区)、菊地市、宇土市、大津町、嘉島町、宇城市..他
震度6弱:阿蘇市、八代市、玉名市、菊陽町、御船町、美里町、山都町、氷川町、天草市..他
震度5強:南小国町、小国町、高森町、山鹿市、玉東町、長洲町、久留米市、柳川市..他
震度5弱:荒尾市、南関町、人吉市、水俣市、福岡市南区、八女市、筑後市、小郡市、大分市、
臼杵市、津久見市、諫早市、島原市..他
2.人的・物的被害状況
人的被害 死亡 55人 重傷 392人 軽傷 1422人
建物被害 全壊 8,305棟 半壊 26,094棟 一部破損 125,846棟
公共建物 243棟 その他 1,809棟 火災 16棟
3.避難の状況
避難所数 94カ所 避難者数 4,692名 (7月13日 13:30現在)
【視察① 益城町被災地(寺迫地区他)】
益城町は熊本市の東部に位置する上益城郡の町である。熊本空港があり、熊本市のベットタウンとして人口は増加傾向で、現在約33,000人である。北部は益城台地と呼ばれる畑作地が広がり、中央部は熊本平野の一環を形成し水田地帯が広がっている。
町の東部にある熊本空港から県道206号線を南下したところにある小谷地区と、県道28号線を西方に進んだところにある寺迫地区にて視察を行った。
小谷地区は、山の傾斜地に住宅が広がっており、大きな木造住宅の集落である。被害は主に瓦屋根に集中している様であり、写真の様にブルーシートで覆われていた。
しかし、実際に近くで被害を確認すると、擁壁が崩れているケースも多く、住宅自体は大きな損傷が無くても、応急危険度判定で「危険」とされ、立ち入り禁止の住宅が多数みられた。
県道28号線沿道は、崩壊した住宅や店舗、そして原形を留めていない残骸が続く。国道443号線と交わる寺迫地区は、益城町で最も被害が大きいと言われている。南北方向に小さな川が流れ、北側は大地、南側は比較的平らな地形であった。
予想通り、北部の台地より、南側で小さな川に沿った住宅地の損傷が大きかった。1階が完全に崩れている住宅や、瓦屋根が崩れ落ちた住宅が多く見られた。詳しい建築年代は不明であるが、比較的古そうな住宅は殆ど、全壊または半壊の被害が生じていた。
比較的新しそうな住宅は、被害を受けていない住宅もあった。恐らく、1981年6月以降の新耐震基準による設計だったと想定されるが、専門家の調査結果を待ちたい。
一方、新耐基準と思われる比較的新しい住宅でも全壊のケースが見られた。これは、地盤の滑動によるものと思われ、地盤に起因する被害も多く確認されている。
【視察③ 熊本城・熊本市役所・宇土市役所】
日本三大名城であり、熊本のシンボルでもある熊本城も甚大な被害を受けていた。大天守は鉄筋コンクリート造で復元されたものであるが、上層の屋根は殆どの瓦が落下し、少し傾いている様である。国の重要文化財に指定されている13件の建築物の半数近くが倒壊したとの事。
また、2005年に木造で復元された飯田丸五層櫓は石垣が崩壊し、角の一列で支えた危険な状態のままでした。
現在、熊本城は遠くからしか見る事ができないが、唯一隣接する熊本市役所の14階から確認できる。これらの写真はそこから撮影したものである。復興には何十年もかかると言われているが、7月中旬には、熊本市による復興計画が公表される見通しである。
宇土市役所本庁舎は1965年竣工の鉄筋コンクリート造5階建ての建築物である。4階と5階が大きく崩壊しているのが分かる。柱と梁の結合部の破壊によると思われる。災害時の拠点となるべき市役所が使用できない状況となった事は、大きな問題である。2003年の耐震診断にて、改装(建替え)すべきと判断されていただけに、悔やまれる。7月11日より解体工事が始まった。
【視察② 熊本市議会 小池洋恵議員】
普段から、防災・防犯政策に取り組んでおられる熊本市議会議員の小池洋恵議員(防災士)にヒアリング調査を行った。
発災から5日経って避難所が出来たとのこと。しかし、避難所が出来ても、自治体もPTAも機能せず、2週間後に行政が動きだし、やっと運営が出来たそうである。他にも避難所での混乱や、ボランティアの活用の仕方などなど、現場ならではの貴重なお話を沢山いただいた。
【視察④ 現地災害対策本部長 松本文明副大臣】
熊本県庁にある災害対策本部の松本文明本部長にヒアリング調査を行った。
国と県・市町村との連携に大変ご苦労されたとの事。色々な非難も予想できたが、トップダウンでやるしかなかった切実な状況が理解できた。
【視察⑤ 熊本市内(非住宅被害)】
熊本市内では、壊滅的な状況にはなく、マンションや店舗のピロティ部分が潰れている建築物をいくつか確認できた。千場歯科は、中央区の繁華街に隣接し、近隣の建物には大きな被害が見られなかった。1階の駐車場の柱が破壊され、潰されていた。
この建物は中央区にある、1965年竣工の鉄筋コンクリート造5階建ての建築物である。外観は殆ど損傷が見られないが、内部は天井が崩落し、使用不可となっていた。東日本大震災でも天井の崩落により、大きな被害が発生し、建築基準法でも改正がなされていた。
テレビでも報道されていたが、帯山小学校の体育館でも天井が崩落し、使用禁止となった事例は大きな課題である。
被災地では災害ゴミを自治体が無料で回収しるが、心なき住民が、震災で発生したとは思えないテレビや冷蔵庫などを廃棄していた。町の彼方此方で不法はゴミが放置されていた。こんな厳しい時だからこそ、品格ある行動が求められており、残念でした。
【所見(視察を終えて)】
発災からちょうど3ヶ月が経ちました。余震は1888回にも及んでいます。7月に入りやっと余震が収まって来た矢先に、九州北部を豪雨が襲い、死者30人、負傷者27人の大災害となりました。犠牲になられた方には謹んでお悔やみ申し上げますとともに、被災された皆様方に心からお見舞い申し上げます。
熊本地震では、建物の耐震性と共に、地盤条件の良否が被害に大きな影響を与えており、その対策が今後の課題になると思われます。千代田区では公共施設の耐震改修は進んでいますが、天井やエレベーターなどもしっかり点検して行くことを改めて認識しました。また、避難所を如何に運営できるかは、地域住民の日頃からの備えにかかっています。今回の視察を材料に、より現実的で実行性のある防災政策を考え、主体的な自助・共助の在り方として、千代田区に提言して行きたいと思います。 (写真撮影:内田直之)